ボンゴレ・ロッソ〜10代目スペシャル〜 草木も眠る丑三つ時。 人がぐうすか寝ているところに、侵入してきて「何か食べさせて」とは一体どういう了見だ。 と、叫ぼうとした獄寺をキスして黙らせ、血塗れ(もちろん全て他人の血だ)雲雀はバスルームに消えた。 「何食わせろってんだよ……つーか、コンビニ行けばいいじゃねえかよ」 あくびをして文句を垂れながら、それでも獄寺は大きな鍋を取り出してたっぷりの湯を沸かした。 沸騰したところへ塩を加えて、イタリア直輸入のスパゲティを軽く一握り投入。 エプロンもかけず、スウェットを捲り上げただけの恰好だが、中々様になっている手つきで鍋の隣に温めていたフライパンの中へ、オリーブオイルをひく。 油を広げたところで塩水につけ置き、よく洗ったあさりを放り込んで炒める。 ジャッと水気を跳ね飛ばす小気味いい音がした。 熱が回ると、あさりが口を開きだす。 白ワインを入れて風味づけをすると、いい香りが漂い、起き抜けの獄寺の胃も刺激される。 蓋をして強火で少し熱した後、一旦蒸し汁ごと皿に取り出した。 空いたフライパンにオリーブオイルをひき直し、みじん切りにしたにんにくを弱火で、色がつくまで炒め、それからトマトの水煮を入れて煮詰める。 みるみる崩れていくトマトの体積が半分ほどになったところで、あげておいたあさりと蒸し汁を入れ、塩こしょうで味を調える。 いつもと同じ味だ。 ちょうどいいタイミングで茹で上がったスパゲティを、できあがったソースの中に加えて均等に混ぜると、パスタ皿に盛り付けた。 スタンダードなボンゴレ・ロッソの完成だ。 変な時間に起こされ、小腹も空いたので別の小さな皿に、自分の分も取り分ける。 イタリアンパセリはあいにく切らしているので、粉チーズをたっぷりとかける。 雲雀がその味を好きかどうかなど知ったことではない。 自分が食べたいように作るだけだ。 洗い物をシンクに残しておくのが好きではない獄寺が、調理器具を茶碗かごに伏せたところで、風呂を浴びた雲雀がさっぱりした様子で出てきた。 小さな円卓に我が物顔でつく。 よく拭いていない濡れた黒髪から、床に雫が落ちているのを見て、手を拭いていた獄寺が顔を顰めた。 「ガキじゃねーんだ、髪くらいちゃんと拭け」 「それよりお腹空いてるんだ」 舌打ちをして、獄寺はスパゲティの皿を雲雀の前に乱暴に置いた。 来客用のフォークは、戸棚の置くから引っ張り出して放り投げる。 上手くキャッチした雲雀だったが、目の前の皿を見つめたまま、食べようとしない。 嫌そうな顔をして食べるのを拒否している、というより興味津々のようだ。 「これ、何?」 「食いモンに見えなかったら出直してこいや」 「あさりのパスタ?」 「10代目スペシャルだ」 「何それ」 ぶっきらぼうに答える獄寺が、「毒なんか入ってねえよ」と先に口をつけた。 さすが本場の育ちだからか、勢いこそあるものの上品な食べ方だ。 くるくると器用にフォークに巻きつけて口へ運ぶ。 しばらくそれを見ていた雲雀もそっと、一口食べた。 やけにゆっくり食うな、と獄寺は思ったが、喋る速度なんかは割合ゆっくりしているので、それもこいつのクセかと一人納得する。 「貝とか面倒なもの入れないでよ」 「作らしといて文句言うなよ! って、ああ! オレのあさりとってくな!!」 殻から外した獄寺のあさりを、素早く雲雀が奪っていく。 ガタンと立ち上がる獄寺に、もぐもぐ口を動かしながら雲雀は自分の皿を突きつけた。 代わりにあさりをやる、ということなのか。 「何だよ」と真意を低く獄寺が問う。 「僕のあさり全部、殻とって」 ついに獄寺はキレた。 「ざけんじゃねーよ!!」 その後どうなったかは定かではないが、でかい爆発音と、食器が割れる音と、鈍い打突音の連続に、翌朝両隣の住人は揃って、目の下に薄い隈を作った顔で、間の部屋のドアを恨めしげに見ていたとか。 |
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