さまよって。 かち合って。 絡まって。 結ばれて。 ほどけていく。 ほんの数瞬の目配せで互いを伝え合う。 見てしまった。 見えてしまった。 あのひとが、彼の紡ぐ音に緩ませた唇。 彼が、あのひとの爪痕を切なく辿った指先。 人にはきっと大切に出来る人の絶対数が決まっていて。 どんなに望んだってそこから、両手で届く範囲から、溢れ出てしまう人がいると思う。 呼ぶ声に。 向けられる優しさに。 かろうじて末席におさまれているとは思うのだけれども。 特別席というのには遠く遠く及ばずに。 「さびしいか?」 「いいえ」 やせ我慢じゃなく首を振る。 例えば綺麗なアクセサリー。例えば華やかなドレス。御伽噺のお姫様。そんなものに憧れるような。 手に触れそうなら期待する。 もしかすると、と思ってしまう。 (だっておかしいじゃないあんなに反発してたのに?) (どうしてかしらあんなに冷たかったのに?) それならいっそ、ショーケースの向こうのまま。 敵わないと、打ちのめされたいという自虐的な思いはないけれど。 境界線をくっきり突きつけられたなら。 小さな疑問や不満なんて踏み潰せるくらいに。 生々しい計算とか、いやらしい感情に巻き込まないくらい離れて。 ひとの幸せを妬む醜い自分を知らないままで。 二人ともを、いとおしいと眺めていられたら。 「いいえ、ちょうどいいんです」 真実を暴き正しいと明確にすることがすべてではなくて。 誰かの苦痛を伴うのならば、少しくらいのずるさは許されたっていい。 ミルクティの入ったカップをゆっくりと傾けながら。 世界が求めるのは潔癖さでなく、ルーズさだといいなあと願う。 「そうか。やっぱイーピンはいい子だなぁ」 いつまでも汚れを知らない少女だと。 臆病を優しさと笑ってくれるこの王子様みたいなひと。 彼も、あのひとも、王子様も、みんなが望んでくれているのならば。 このままで。 いさせてほしい。 追いつけない距離が、ちょうど良い (怪獣にさせないで) |
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