偽薬 獄寺はそれを薬のように口に含んだ。 安っぽい、透明な青緑のプラスチックに入った白い錠剤は、甘く酸っぱく舌の上で溶ける。 ニコチンはひどい中毒になるから。 と、綱吉は増えていく煙草の本数にほんの少し眉を寄せて言った。 君の武器になるのは重々承知しているけれど、体に悪いから、少しずつ減らしていこうね、と。 それから、神妙に頷く獄寺に苦笑しながら。 ちょっとずつ、これで紛らわせてみて。 手渡されたラムネは、今はシガーケースの代わりに胸ポケットに収まっている。 最初は五本吸ううちの一回。 それから、二週間ごとに四本に一回、三本に一回、とラムネの割合が増えていき、煙草の本数が減った。 今では戦闘時以外ほとんど吸うことはなくなっている。 懐かしい味、と言うには獄寺はその味に慣れてはいなかった。 気休めに食べるそれは、せっかちに噛み砕くときもあれば、ゆるゆる舐め溶かすときもある。 ポケットから無意識に取り出しても、もうその形や軽さが手に馴染んでいて。 砂糖も中毒になるんだぜと、いつかシャマルが話した言葉が脳裏に浮かんで消えた。 「随分かわいいものを食べてるね」 「煙草の代わりなんだよ」 腰掛けていたソファが沈む。 隣に座った雲雀は軽くひらいた左手を獄寺に向けて催促する。 一粒だけ出すつもりが、傾けすぎたプラスチック容器からはポロポロいくつも転がり出てしまった。 突き返されるかと思いきや、雲雀は不満げな様子を見せずに、無言のまま右手で一粒ずつ摘んで口に運んだ。 「…甘い。これじゃ、煙草の代わりとは言えないんじゃない?」 「まぁ、気分的なモンだな……オレは、弱いから」 何かでごまかさないと耐えられないくらいに。 自嘲するでもなく、獄寺は自分を評してラムネをまた一つ口に放り込んだ。 舌から伝わる人工的な甘みは、じわりと脳と心臓の強張った部分をほぐす。 「そうだね、君は弱い。…けど、――……」 雲雀は続く言葉を消し、最後のラムネを噛み砕くと空いた手で獄寺の頭を撫ぜた。 その触れ方がひどく柔らかくて、獄寺は目をつむる。 「食べた後はちゃんと歯を磨きなよ」 打ち消したまま、言葉を変えて小さな子供に言うように、雲雀はかすかに笑みを見せる。 獄寺は怒らなかった。 からかうような台詞に突っかかってもおかしくないのに、不思議なほど心は静かだ。 これも『薬』の効果なのかもしれない。 獄寺は思った。 離れる指から細い銀茶の髪が滑り落ち、緑の双眸が淋しげにそれを目で追う。 ふと生まれたわずかな不安で、沈みかけそうになり、二粒いっぺんに白い菓子を食べた。 広がる甘みに浮上していく心を感じ、獄寺は溜息をついた。 |
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