連れてってください、10代目。

必死に訴えても、かの人は首を縦に振らなかった。
優しく、そして厳しい目で「君は来るな。ちゃんと休んでて」と自分に命令した。
有無を言わさずに、向けられた背中。
一歩、二歩。
獄寺を置いて、離れていく。

でも。
オレは貴方の右腕で。

必死に飲み込んだ言葉が、喉にわだかまる。
思いやりの嬉しさよりも、不安が胸を締めつけた。

「大丈夫」
「帰ってくるから」
そう言ったまま、帰ってこなかった人間を、獄寺は何人も知っている。

綱吉の強さを疑うわけじゃない。
けれど、だけど。
もしも、万が一。
例えどんなに綱吉が強くても、この心細さを払拭することなんてできないだろう。

行かないで。
一人にしないで。
オレを置いて、いかないで。

心の奥底でうずくまっている小さな子供が今、大声で泣き始める。

「信じて待つってのも、仲間だからできることだろ」

嫌だ。
嘘だ。
そんなのできっこない。
だって。


こんなにも寂しい。


綱吉の部屋を出られないまま、放心したようにソファに腰掛けていた獄寺。
俯いた視線の先には白い包帯が巻かれた腕。
先日あった抗争で迂闊にも腱を傷つけてしまった。
震えるばかりでろくに動かない。
だから、戦場に立ったところで満足には戦えない。

だが、盾にはなれる。
あんまり逞しい身体ではないけれど、防弾チョッキよりはきっと役に立つ。
元よりこの命、とっくにボンゴレ10代目・綱吉のものだ。
多分笑って彼は「いらないよ」と言うけれど。

彼が死ぬ前に、死にたい。
獄寺の純粋な本音だ。
看取るなんて、できない。
耐えられない。

脅えるように身を縮めて、頭を抱えた。

自分はそれほどまでに呆けていたのかと情けなくなるが、手に触れられて初めて人の存在に気づく。
あの人が帰ってきたのではない。
ぼんやりと合ったのは、優しい濃茶ではなく、切れそうに鋭い黒の双眸。

「行くよ」

雲雀は獄寺の手首を掴んで引いた。
ばさばさと、黒いジャケットと防弾チョッキ、そしてベレッタM92を放りながら。
一体何を。
獄寺はどうにか愛銃だけキャッチして、雲雀を見上げた。

「ダイナマイトと煙草は持ってるんだろ?」

どこに行くか、なんて火を見るより明らかなこと。
あの人を、追いかける。
背筋がざわめいたが、理性で押さえつけて跳ねた横髪を左右に力なく振った。

「駄目だ。オレは行けねー……」

ボスの命令は絶対だ。
獄寺は犬と言うよりは雛鳥のように、盲目的に綱吉を信じきっている。
ずっと以前に誓った忠誠は、今まで破られたことが無い。
そしてこれからも破らない。
自分の中の幼子が泣き叫んでいても。
我慢するように、下唇を噛んで再び俯いた。

「……君は、行きたいの? 行きたくないの?」

「行きてぇよっ!」

今更、確認しなくても解るだろう、と。
獄寺が顔を歪めて吐き捨てる。
睨みつけられても雲雀は無表情のまま、「じゃあ行こう」と腕を引っ張る。

「でも行けねーんだよ!! そりゃ行きてえよ、オレは死ぬほど行きてえ! 待ってるだけなんて怖くてたまんねぇから、何もできなくても10代目の傍にいてえよ!! …あの人は強くて、優しいから、約束は守ってくれるし、絶対、死んだりしねえ。けど、どうしようもなく不安なんだ。心配することなんかねーのに……傍にいたいっていうのは、そーいうオレの我が儘でしかねえから……行けねえ」

振り払って獄寺が喚く。
みっともないことをしていると自覚はあった。
しかし溢れた言葉は止められない。
最後大きく息を吐いて、悄然と項垂れた獄寺はきつく両目を閉じた。
きっと雲雀は気分を害して一発殴るか蹴るか、無言で去っていくか。
獄寺にとって、どの反応でももう構わなかったけれど。

「……何してんだよ」

「黙ってて。君には関係ないから」

雲雀は獄寺に手早く防弾チョッキを着せ、ホルスターにベレッタを突っ込み、ジャケットを羽織らせた。

「僕のやりたいようにする。それならいいだろ?」

にっと酷薄な笑みを淡く口の端に浮かべた。
この男は時折どうしようもなく無自覚に優しい。
戦場に立つ理由を作った雲雀。
獄寺の中に何かこみ上げてきて、目が熱くなる。
返事をせず、けれど抵抗もしない獄寺を乱暴に立たせて、大きくドアを開いた。






――どうして、孤独を好むお前が。



置いてけぼりの寂しさを知っているの






割とあっさり終わらせる予定だったのに、獄寺くんの独白でちょっと長くなっちゃいました。
獄寺くんの機微に敏い雲雀さんだったら良いなあと思って。
雲雀さんが優しい話を目指してみました。
うちのは常にバイオレンスの香りが付きまとうからね…!
偶には心機一転、優しさ溢れる雲雀さんを一発…と思ったら私の雲雀像が崩壊して行きました。
あらら。

ちなみに獄寺くんの所持する拳銃についてかなり悩みました。
私はそういうの疎いので、武器関連サイトさん覗きながらどうにか決めましたが。
アメリカ産のは嫌で、あんまりちゃちくさい、安っぽいのも嫌で。
かといって主力はダイナマイトですので、あんまり大型なのもどうよ、と思い。
綺麗なデザインならば、FN社のハイパワーとかイカすー!んですけど…。
とりあえずイタリア産の、メジャーなベレッタになりました。
女性でも扱えるらしいので、負担にはならないでしょう。
ちなみに、写真はベレッタじゃないです多分。
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