Temptation くん、と犬のように鼻を鳴らした。 「あれ、ヒバリ、いつもと違う匂いがする」 寄ってまとわりついてくる姿もやはり犬のようで。 雲雀はとても人懐こい大型犬――もとい、うざったいほどくっついてくる山本の額を邪魔そうに手で押しのけた。 めげずに、山本はにこにこと鼻を押しつけるようにじゃれついてくる。 「茶会に行った寺院で焚かれてた、白檀じゃない?」 移ったんだろ、と袖口を嗅いで、うっすらと漂う甘く苦しいような香りを確かめる。 白檀は主に、仏像、美術品、扇子、線香に使用され、その材木は黄味がかった白色で、強い香りがある。 香りの効能は、精神安定や緊張緩和を促し、その他に――フェロモン効果もある、そうだ。 「温泉旅館とか、寺とか、何か高級ーって感じ。あーでも、甘くてくせになりそう。ずっと嗅いでたいかも」 いちいちどつくのも面倒くさくなって、雲雀は座り心地のいい革張りのソファに深く身を沈めた。 山本はちゃっかりと隣をキープし、細い首に腕を絡めて、髪や首筋に飽きもせず鼻を埋めて愉しんでいる。 わざとなのか、偶にかかる吐息がくすぐったい。 「あ、さすがに甘くねーのな」 調子付いた舌が、べろりと首筋を舐める。 鳥肌が立ち、雲雀は躊躇い無く拳を振り上げた。 顎先にガツンと当たり、舌を噛んでしまったらしい山本が、舌先を出して「ひれーあー、ひあいー」と痛がっている。 自業自得だ、と雲雀はいつもの通り、にべも無い。 「君の嫌いな香りは何?」 「んー…そうだな、ケバい感じのおばさんたちがつけてる香水とか? きっついよなー」 あれは雲雀も嫌いなので、山本撃退策として却下である。 何をそんなに主張したいのか、振り撒かれる甘かったりスパイシーだったりする香水が、ツーンと脳髄を刺すようで。 一体どれだけつけているのだろうか、ダメージは相当大きい。 それならまだ男の汗の匂いの方がマシだとさえ思える。 「でもヒバリなら全部好きかもなっ」 「ああ、そう……」 「そう!」 反応が薄い雲雀でも、山本はにかっと歯を見せて笑う。 何がそんなに嬉しいのか、やっぱり鈍くて阿呆だと、雲雀は痛感した。 そして、動物だとも。 「…何してるの」 「やーほら、いつもと違う匂いで、なんつーか、お色気むんむん?」 「馬鹿じゃない?……いや、訂正。馬鹿だ、君は立派な馬鹿だよ」 でも、なかなかいい勘だ。 フェロモン効果を本能で嗅ぎ分けているらしい。 隙あらばと裾から滑り込んでくる節くれだった指を掴みきれず、侵入を許してしまう。 肉刺だらけの硬い手のひらは、うざったいほど熱くて嫌いだ。 無視できない。 「ひでーの」 奪うような手つきで熱を灯すくせに、惜しみなく与えていく。 先を急ぐようで、けれど丁寧に雲雀の快楽を暴いては、呼吸を荒げる。 そうして、艶めいた声と秘めやかな音が室内を満たす頃。 肌の熱に、白檀が強く強く香って、その甘苦しい香りで二人を包んだ。 |
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