イタリアへ、帰るんだ。 無性に癇に障ったのはどうしてだろう。 それでもただ、「そう」とだけ答えた。 何か言いたげな視線が雲雀に突き刺さったが、敢えて無視した。 引き止めて欲しかったのだろうか。 まさか。 あの子が大好きな『10代目』と共に、旅立つのに。 「じゃあな」とまるで、彼の方が置いていかれるような眼をして。 出会って六年が経っていた。 幼かった彼は、いつしか開けっ広げの笑みを忘れ、時には冷酷に、時には控えめに淡く笑んだ。 気紛れに触れて、勘違いしないでと釘を刺して。 困惑した綺麗な顔を見ながら、振り回す優越に酔って。 それが何になったろう。 あの子が守ろうとするのは、縋ろうとするのは、いつだってそう、僕じゃない。 だから哀しいと感じる神経回路は雲雀には無かった。 胸の中に巣食うものは確実にあったけれど、知らない振りをした。 飼い主のように保護者のように彼を許容し傍に置いた男の、柔らかい声が何事か――おそらく無難な感謝と別れの挨拶だろう――言うのは、耳に入っても頭に残らない。 ただその隣にいる、色の薄い跳ねた髪を眺めていた。 「行こうか、獄寺君」 「あ、はい……」 歩き出す男の右斜め後ろ。 獄寺は早足でその定位置につく。 いつの間にか息を止めていた雲雀は、細く息を吐き、からからに渇いた喉に唾を流しこむ。 ふと、一瞬だけ獄寺が振り返った。 切なさが零れて滲んだような表情。 心より早く指先がぴくりと動き、唇の先が僅かに開く。 「――――――」 言葉はいつまでたっても紡がれなかった。 無事を祈る言葉も、感謝の言葉も、戯れの脅しも、意味の無い言葉さえ、何も。 そして一瞬は儚く終わる。 綺麗な顔は前に戻され、細い後姿だけが漆黒の眼に映し出された。 雲雀は立ち尽くしていた。 遠ざかる影二つ、何も言えないまま。 |
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