モーニング・ピロー・トーク 妙な温もりと、知っているようないないような匂いと、柔らかくて硬い相反する感触に、ぐっすり眠り込んでいた獄寺は目を覚ました。 実はあまり寝起きは良くないので、必要な時以外は睡眠を邪魔されたくない。 すぐくっつきそうになる瞼を押し上げれば、霞む視界にはシーツの白い波が映る。 何の変哲も無い。 異常無しと視認した獄寺は、睡魔に身を委ねてあっさりと瞼の力を抜き、目を閉じた。 もう少し眠りたい。 それにしても何だか納まりが悪かったので、鼻からの溜息と共にごろりと反対側へ寝返りをうった。 落ち着いた気がして、ゆったりと足を伸ばす。 獄寺は眉を寄せた。 何かあって、素足に当たる。 気は進まないがもう一度瞼をぐっと押し上げた。 目に入ったのは――――――。 「……は?」 昨晩床を共にした男、雲雀恭弥の寝顔だった。 凶暴さの代わりに幼さの浮かぶ顔がそこにあることに驚き、しきりに瞬きを繰り返す。 しかしきれいな顔は消えること無く、よりはっきりくっきりと見えてきた。 視線がうるさかったのか、長い睫に縁取られた薄い瞼がぱかっと開く。 身動ぎもしない突然の目覚めに、見ている獄寺の方が息を飲んだ。 「……何?」 「…なんでてめーがここにいるんだよ…?」 「いちゃ悪い?」 「や、そりゃ……」 ここは雲雀が用意した部屋だ。 そこで「いたら悪い」と言えるほどの厚かましさは、獄寺には無い。 まして寝起きでぼんやりしている。 「でも、いつもいねーのに……」とぼそりと言ったきり、言葉に詰まってしまう。 寝ていれば何ともなかったが、存在を知ってしまえば素肌の体温の伝わる距離が、妙に居心地が悪い。 かと言って起きて抜け出すのも、逃げるようで嫌だ。 寝返りをうって顔を背けると、ベッドの端まで中途半端に距離をとった。 「足寒いんだけど」 獄寺が引き摺り持っていってしまった毛布を、雲雀がひっぱる。 今度は獄寺の胸が露になり、朝方の冷気がさっと嬲っていく。 あいにくこのベッドに毛布は一枚しかないし、空調をどうにかするのも億劫だ。 せっかくとった距離を縮めるのも嫌で、獄寺は引っ張り返す。 「オレも寒い」 するとまた雲雀が毛布を強く引く。 今度は獄寺の腰までが露になった。 結局、引っ張り合いから蹴り合いに発展した果てに、雲雀の足技がクリティカルヒットして、獄寺はベッドから転げ落ちてしまった。 どすんと鈍く痛そうな音がする。 「ってえ! ヒバリ……!」 腰を摩りつつ肩をいからせて立ち上がる。 雲雀は頭までしっかりと毛布を被って、ぬくぬくとベッドの上だ。 腹いせに踵落としでもかましてやろうかと思っていると、ずぼっと剥きだしの腕が毛布から飛び出てきて、お化けが黄泉の国へ誘うようにちょいちょいと手首を振って呼ばれる。 「あん?……ッわ!」 顔を顰めていぶかしみながらベッドに膝を立てると、強い力で手首をとられてマットレスに勢いよく倒された。 悪戯をたくらむ子供のように、上機嫌の猫のように、細められた黒目が毛布の中から覗き、獄寺を捉える。 「今から激しい運動に付き合ってくれるなら、入れてあげてもいいよ」 さあ、どうすると言いながら、毛布の中に引きずり込もうと誘う雲雀。 「いらねーし、付き合わねえ」 獄寺はすっぱりと誘いを蹴り飛ばした。 「そう?」 「……付き合わねえって言ってんじゃねーか」 断ったと言うのに、いつまでたっても獄寺を掴んだまま手を離そうとしない雲雀に、声を荒げる。 いい加減服を着なければ、体が芯から冷えてしまう。 「離せよ。風邪引くだろうが」 「付き合ってくれれば、あったかい毛布の中に入れてあげるよ?」 「あのなあ……」 ちらりと捲られる毛布の中。 雲雀の隣。 大きく長い溜息一つで、根負けしたのはいつも通り獄寺で。 毛布の中は、確かに温かかったけれど。 やはりいつもいない奴がいると、ロクなことにならないんだと首筋を舐められながら考えていたのだった。 |
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