蜜柑にまつわるエトセトラ 応接室のテーブルの上には、誰かがこの部屋の主に献上したのだろうか、大きくて色の濃い、見るからに美味そうな蜜柑がごろごろと三つばかり置かれていた。 雲雀も忙しいのか相手をしようとはせず、結果暇を持て余した獄寺はその中でも一番大きなものを一つ手に取り、皮を剥き始めた。 沢田家の人間はヘタのある方から指を刺すので、獄寺もそれに倣っている。 爽やかに甘酸っぱい香りが広がる。 日本に来る前はほとんど口にしたことがないものだったが、地中海のオレンジよりも皮が薄くて食べやすく、そのサイズに腹が膨れていてもぺろりと二、三個はいけるので、つい手が伸びてしまう。 今は特に食べたいわけではなかったから、手遊びがてらゆっくりと剥いた。 外の皮を全て取ると、ワックスで指先がテカテカしていたが、気にせずにいつもは取らない白い筋もとる。 途中で千切れないように慎重に引っ張り、やがて蜜柑は甘い粒を守る房だけになった。 手の温度が少し移っていたが、綺麗な仕上がりに満足した獄寺が、さて食べるかと口を開けた。 その時。 「あッ!」 白い手が皮を剥かれた蜜柑を掠め取っていった。 そのまま止める間もなく、ばくりと他人の口に放り込まれ無残に食べられてしまう。 食べたいからではなく、暇つぶしに剥いていただけだが、とられてしまうと無性に丹精込めて剥いた蜜柑が食べたくて仕方なかったように思える。 すぐ後ろに立っていた蜜柑泥棒を、獄寺はキッと睨んだ。 けれど泥棒は怯むどころかにやりと嗤って果汁に濡れた指を舐めた。 「一番美味しいのは人が剥いた蜜柑だよね」 「オレの蜜柑返せ!!」 「ここのものは全て僕の物だよ。でもまあ、剥いてくれたお礼に味見をさせてあげようか」 強く顎を掴まれて、顔をグッと上げさせられた。 続けて文句も言えないまま、口を重ねられた。 雲雀が仕掛けた口づけは舌を絡め取る官能的なものだったが、怒っている獄寺が拒みはしなかったが何も応えることもなく、すぐに終わり唇が離れていった。 生温い酸味と甘みが微かに舌に残る。 「んなもんいらねーってんだよ!……ったく、もらってくぜ」 半端に味を知ってしまうと、余計にむかっ腹がたつ。 思い切り顔を顰め、迷惑料だと言わんばかりの態度で、残る二つのうちの一つを掴んで獄寺は立ち上がった。 雲雀は残った最後の一つを手のひらで転がす。 「特別にあげてもいいけど、今度味見させてね」 「誰がさせるか!!」 獄寺は潰しそうなほど拳に力を入れて怒鳴り、乱暴に戸を開けて応接室を出て行った。 |
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