光の眩さに目を瞑った。 まだ冷たい突風がぶつかって、髪をくしゃくしゃにかき乱していく。 それでも残るかすかな温もりにほっと唇をほどいた。 「あで」 「ちょっとォ、準サン何目ェつぶってんの、危ないでしょ」 先を歩いていた利央の背にぶつかり、「歩きながら寝ないでよ」と的外れな注意をする後輩に軽く蹴りを入れる。 寝ていたわけではないと訴えたつもりだが、「まあ気持ちいーのはわかるけど」空にキスを贈るように瞼を下ろす利央には通じていない。 「おひさまがあったかいねえ」 そのまま口の端をむにむに上げる様は、日向ぼっこをしている猫にも似て。 「で?」 「へ?」 「どうかしたか?」 「あ! あのね、」 足を止めた理由を尋ねると、利央はぱっと目を開いてしゃがんだ。 アスファルトに舗装されていない道の端。 土の上を青く染める小さな花。 「オオイヌノフグリ!」 指をさして、一面に咲くそれらを覗き込む。 「おー、もうすぐ春だな」 春の先駆けである花は梅や桜、チューリップやタンポポが代表選手だが、このオオイヌノフグリだって控えめだが気づけば身近で春を感じさせてくれている。 「そのうちフキノトウとか、ツクシとか、シロツメクサとかも生えてくるよねェ。…かわいいなあ」 幼い頃から外で飛び回っていたからか、利央の口から出るのは野の草花ばかりだ。 小指の先よりも小さな花弁にそっと触れる。 その隣に同じようにしゃがんだ。 温まった土から、青い、春の匂いが立ち上ってくる。 くぁ、と大きな欠伸。 「なァ」 「なーに、準サン」 「オオイヌノフグリって、さ」 目で先を促す利央に。 「名前、大きい犬の陰嚢ってことなんだって」 「インノーって…」 「つまりきんた」 「わーわーわー!!準サンなんつーコトゆうの!?」 「いやだって図鑑に書いてあったし」 「本当のコトでも言ったらダメでしょ! かわいーのに…」 かわいーのに、ともう一度繰り返して利央は準太とオオイヌノフグリを交互に見た。 少しだけ口を尖らせている彼の頭をかき回すように撫でる。 温まった髪が指に絡む。 「ちょっとぉ、ぐちゃぐちゃになるじゃん」更につんと尖る唇。 色の薄い睫が陽に透けていた。 「おし、そろそろ行くぞ」 「うん!」 短く薄い影が二人の後を追う。 そよ風が小さな花をかすかに揺らす。 それは春の日だった。 ハナノナ |
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